体罰について思う/スポーツ界だけの問題だけではない・・・指導者の想像力の欠如

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体罰を受けた生徒が自殺し、ニュースワイドショーなどでは「体罰反対」の報道が溢れています。体罰容認派として有名だった橋下大阪市長まで「考えが甘かった」と、体罰反対の姿勢を明らかにしています。(「脱原発」もあっさり放り出した橋下市長です。今回の「体罰反対」も世論を気にした人気取りの思いつきでしょうから、そのうち「撤回」するのじゃないかと思いますが。)

今回の報道を見ていて愕然としたのは、「負けると殴られる。失敗すると殴られる」という生徒の証言でした。負けたことを、自分の指導が悪かったからだと思わず、生徒のせいにする。このような風潮は、スポーツの世界だけでなく、日本のあらゆるところで蔓延しています。その裏には「先生は偉い。先生は間違えない。偉い人の言うことはきくべし。」という、日本の社会が持っているどうしようもない「いびつな歪められた儒教の影響」があるように思えてなりません。

さまざまな報道を見ると、体育会系の学生や教員の中では、限定的な体罰を容認している人の方が多いようです。今回の件でも「言っても聞かない生徒もいる」などと言っている先生が報道されていました。こうした指導者たちは、自分自身が指導者になった「成功者」であることを忘れています。落ちこぼれていく生徒、体罰を受けて辞めていく(あるいは、今回のように死んでいく)生徒に対する想像力がないのです。背景には、「落ちこぼれるのは生徒が悪い。自分はできたのだから」という意識が透けて見えてしまうのです。

(日本の社会は、こうした健全な想像力を失う方向に流れていっているように思えます。「従軍慰安婦は強制などなかった」という人たちに聞きたい。それでは、当時の(今より儒教概念が強かった)社会で、喜んで慰安婦になった女性がどれだけいたと思うのか。教え手が脱落していく生徒のことを思えなくなったとき、それは、成長する子どもたち(の勝者)が、人を思いやる心を失っていくことを意味します。)

それはさておき、音楽教育の世界でもこうしたことは普通に起こっています。さすがに「体罰」ではありませんが、精神的な「罰」であることは確かです。その影響は、実際の体罰より軽いということはありません。

だいぶ前のことですが、ホームページに「先生は誰のための存在か」というコラムを書きました。ここに取り上げたのは、発表会で失敗した生徒に怒る先生、体を痛めた生徒に「お前が悪い」と追い打ちをかける先生などですが、「負けたから殴る」という構造と全く同じであることがおわかりいただけるでしょう。こういう先生が実に多いのです。殴られた痕は残りますから、何をされたかわかりますし、いざというときには診断書を取ることも出来ます。しかし、言葉の暴力は、目に見えない分、厄介な面もあります。

生徒が伸びなくなれば、教え手は大いに悩みます。伸びない原因を探ること、何が悪いのかを明確にすること、それを何故伝えられなかったかを考えること、が、教え手の仕事です。生徒のせいにするのは、教え手が仕事を放棄しているということなのです。

「体罰は生徒を萎縮させるのだから逆効果」と言う教育の専門家もいますが、私はそういう視点を持つことは危険だと思います。それなら「効果がある罰なら良いのか」という議論になってしまうからです。本質的に、生徒と先生という「抵抗できない関係」の下では「抵抗できない生徒を権力者である先生が罰する」ということはあってはならないのです。私のように大人の生徒が多い場合でも、絶対にやってはいけないことだと思っています。ですから「罰に効果があるかどうか」ということを議論することは、それ自体が誤りなのです。(もちろん「校則」として決められているペナルティーなどは別です。それでも、問題がある校則は少なくないようですが。)

私がこのようなコメントを書こうと思ったのは、生徒が「ごめんなさい」ということが多いことが、普段から気になっているからです。

間違えたとき、つまずいたとき、「すいません」「ごめんなさい」という生徒が何人もいます。その度に、「ああ、私は生徒を圧迫しているのかな」と気になってしまうのです。「悪いことをやっているのじゃないから、謝る必要はないんだよ」と言っても、なかなかなくなりません。そうした生徒を見ていると、「失敗したら謝らなくてはならない」ということが染み付いているのではないか、と思ってしまうのです。

私は、声を大にしていいいたいと思っています。「生徒が一生懸命練習しても弾けないなら、それは先生が悪い!」

体罰や精神的ないじめをしている先生たちには、しっかりと考え直してほしいと思っています。そして、議論がおかしな方向に向かわないように願うばかりです。

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